ハンの紹介


韓 昌完(ChangWan HAN)

 ●概要

韓昌完(ハン・チャンワン、1969年-)は、日本の公立大学の学長。日本国内において、韓国国籍を持つ国公立大学初の学長就任とされる。医学分野(障害科学)と経営学のW博士号を持ち、日韓の大学で教鞭をとりながら後進育成にも尽力し、多くの研究者や大学教員を輩出してきた。琉球大学教育学部の教授を経て、その後公立大学法人下関市立大学の理事・副学長を務めながら教授としても大学院研究科長を兼任。2022年4月から同大学の学長に就任した。

博士後期課程の学位論文でもある『Development of the Korean version of Short-Form 36-Item Health Survey: health related QOL of healthy elderly people and elderly patients in Korea(Han, Lee, Iwaya et al., The Tohoku journal of experimental medicine, 2004, 203(3), 189-194. 掲載)[impact factor=2.547](>リンク:J-STAGE)』は、現在でも世界中から引用され続けており(※Google Scalar調べによる被引用数296回:2023年11月現在)、韓国国内においては高齢者のQOL研究の基礎を作った権威として知られる。日本の厚生労働省にあたる韓国保健福祉家族部(受賞当時)や、政令指定都市の長の功労表彰を3回受賞。

研究者として、インクルーシブ教育や乳幼児教育、高齢者福祉における制度・政策、QOL向上などの観点から、人間のライフサイクルを軸にしたヒューマンサービス分野における幅広い領域を専門とし、日韓の研究交流及び若手研究者の育成を目的として、2010年に「アジアヒューマンサービス研究会」を立ち上げる。日本と韓国の研究者に声をかけ、2011年に「アジアヒューマンサービス学会(Asian Society of Human Services;ASHS)」を設立、2017年に法人化 (>リンク:ASHS)。

研究者としての転機は、2015年に15年間の様々な分野の調査研究をもとにして、『包括的教育を必要とする子(Inclusive Needs Child; IN-Child)』を定義したことに端を発する。教育現場で「気になる子」や「発達障害」という言葉の独り歩きで広がる間違った認識を正すべく、小中学校生活の中で一人ひとりの教育的ニーズに対応する「IN-Childプロジェクト」を立ち上げた。その後も、人間のライフステージ毎に様々なプロジェクトを推進しており、同プロジェクトの他にも高校や社会人のキャリアのニーズに応えるための「C3プロジェクト」、乳幼児の概念形成を把握し才能を発掘する「CRAYONプロジェクト」、高齢者虐待の原因と結果の分析から高齢者虐待防止策を作成することを目的として韓国の中央老人保護専門機関と共同で行っている「PEACEプロジェクト」などがある。これらのIN-Childプロジェクトをはじめとした、研究成果の普及や若手研究者の支援、奨学金事業などを目的に、一般財団法人HAN研究財団を2018年9月に設立。

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●人物・略歴

1969年に韓国春川市で、2人兄弟の長男として生まれた。

1997年に京都旅行で訪れた同志社大学の歴史と学風に魅了され、同志社大学へ語学留学を果たし、20か国以上の国から来た多くの留学生の中でもトップの成績で「成績優秀奨学生」として修了。その後、日本での大学院進学に対して親身になって相談に乗ってくださった当時の東北大学教授の人格と学問的理念に感銘を受け、宮城県仙台市に移住。東北大学医学部の研究生を経て、同大学大学院医学系研究科博士前期課程を修了し、同研究科博士後期課程にて上月正博教授に師事し博士号(医博(障)第88号)を取得(2005年3月)。在学中の2002年、日本の視察に訪れた韓国の又松大学(Woosong University)の総長に指導力・研究力を見出され、翌年から韓国に戻り又松大学保健福祉学部の専任講師(2003~2006年)、助教授(2007~2010)として教壇に立つ。韓国と日本の往復で、愛媛県の聖カタリナ大学の人間健康福祉学部の非常勤講師(2009~2011)や東北大学大学院医学系研究科の非常勤講師(2009、2011~2012)をしながら、東北大学大学院経済学研究科経済・経営学専攻博士後期課程に入学。その後、韓国を離れて佐賀大学高等教育開発センターの特任講師(2010~2012)として佐賀県に移り住み、日韓両国で築いた研究者間の繋がりをもって、2010年に「アジアヒューマンサービス研究会」を中心となって立ち上げる。研究交流及び若手研究者の育成を目的として、翌年に「アジアヒューマンサービス学会(Asian Society of Human Services;ASHS)」を設立し、学術雑誌の発行や学術大会の開催を企画・運営。2011年9月に東北大学大学院経済学研究科経済・経営学専攻博士後期課程を修了し2つ目の博士号(経博(経営学)第84号)を取得後、W博士号を持って国立大学法人琉球大学教育学部の特別支援教育専修に准教授(2012年4月)として赴任。琉球大学在職中に、沖縄県を中心にこれまでの研究の集大成とも言える大型プロジェクトがいくつも始動。始まりは、2015年に特別支援教育アドバイザーとして学校現場のケース会議に参加したことがきっかけとなった、「IN-Childプロジェクト」。このときの経験が、後の多くのプロジェクトに通ずる理念の根幹や人との縁をつくる。2017年4月に同専修にて教授となる。同年、ASHSを法人化し「一般社団法人アジアヒューマンサービス学会」とする。

新たな転機は、2017年8月にIN-Childプロジェクトの一環で開催した研修会において、山口県下関市で保育園を経営されている園長先生との出会い。「子ども一人ひとりを見る」というIN-Childの理念に共感した園長先生の熱意に動かされ、乳幼児期の教育を対象とした「CRAYONプロジェクト」に着手。 保育園の職員や保護者、子どもたちの全面協力の下で、沖縄県と山口県を往復しながらプロジェクトを推進すること約3年、山口県下関市への移住を決める。その間に、次世代を担う人材育成を目的として、社会に対する研究成果の普及・還元、若手研究者の支援、奨学金事業などを行う一般財団法人HAN研究財団を2018年9月に設立。

2020年4月に公立大学法人下関市立大学の理事・副学長に就任し、下関市立大学に附属リカレント教育センターを設置。翌年には、特別支援教育特別専攻科の設置と大学院経済学研究科に教育経済学領域開設を実現。少子高齢化の進む下関市の地域的特徴から、すべての世代を対象に教育の機会を提供する公立大学の新しい挑戦として、社会人教育の大幅な拡充に力を入れる。それらの功績が認められ、2022年4月から学長に就任し現在に至る。

その他、一般社団法人アジアヒューマンサービス学会(Asian Society of Human Services)の副会長、一般社団法人日本LD学会の特別支援教育士スーパーバイザー(Special Educational Needs Specialist Supervisor):S.E.N.S-SV、一般財団法人HAN研究財団の理事。KOCON(The Korea Contents Association)の理事及び編集委員、韓国社会政策学会の理事、韓国社会サービス学会の理事など。

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●研究プロジェクト

  • 「IN-Childプロジェクト(2017~)」の研究代表者。小中学校(義務教育課程)にいる子どもを対象にして、一人ひとりの教育的ニーズに対応することを目的としている。子どもの教育的ニーズを把握し継続的な支援プランを提供するためのツールとして、IN-Child Record(Inclusive Needs Child Record; ICR)を開発。琉球大学在職中における塩野義製薬株式会社との共同研究(2017~2020)では、沖縄県宜野湾市立嘉数中学校を発祥として同市を中心に活動していたが、現在では県の垣根を超える教育的取り組みとして注目されており、日本各地に広がっている。また、日本中の学校及び教育委員会、教育関係団体等からの依頼で、IN-Childに関する講演や研修会を開催。プロジェクトでの成功事例を書籍化し、2019年に『その子、発達障害ではありません IN-Childの奇跡』をさくら舎から出版(第22刷重版:2023年3月現在)(>リンク:書籍)。朝日新聞の『好書好日』(>リンク:記事)やダ・ヴィンチニュース(>リンク:記事)で紹介された。また、教育新聞において『IN-Child―包括的教育を必要とする子ども』と題して全12回の連載を寄稿(>リンク:連載)。
  • 「CRAYON プロジェクト(2018~)」の研究代表者。IN-Childプロジェクトで得られた問題意識の下、乳幼児期の子どもを対象にして、子どもの概念形成と才能発掘の観点から子育てを手助けするプロジェクトを発足。大人の関わりや園内環境などの子どもを取り巻く環境を把握し、かつ、子どもの概念形成を把握して才能を発掘するためのツールとしてCRAYON BOOK(Child Rearing Assist for Your Needs BOOK)を開発。株式会社紬が運営する企業主導型保育園から始まったプロジェクトは、子育て支援事業を行う株式会社パソナフォスター(>リンク:企業)と共同で行った冊子化により全国に普及し、同社の関連保育施設だけでなく、山陽地方を中心とした全国のヤクルト販売会社の保育園に次々と導入されている(>リンク:記事)。CRAYON BOOKを用いた保育士たちへの研修会の実施や、ツールに基づいた子ども達への具体的な支援方法を提示している。2023年に、IN-Childに続き研究成果本第2弾となる『誰もが優秀児になれる!CRAYONプロジェクトの実証』をさくら舎から出版(初版:2023年9月現在)(>リンク:書籍)。
  • 「C3プロジェクト(2019~)」の研究代表者。IN-Childプロジェクトの個の教育的ニーズに応じるという理念を引き継ぎ、義務教育課程を終了した青少年から成人までを対象にした、切れ目のないキャリア形成を支援することを目的としてしている。個人のキャリア形成に関するニーズや特性を把握しキャリア形成プランを提供するためのツールとして、高校生版及び社会人版のScale C3(Scale for Coordinate Contiguous Career)を開発。琉球大学在職中に始まった塩野義製薬株式会社との共同研究(2019~2020)を基盤にして、現在も研究を進めている。
  • 「PEACEプロジェクト(2019~)」の研究代表者。高齢化が進む中、喫緊の社会課題である高齢者虐待に対して、何が原因で結果的に誰がどのような虐待をおこなったかを分析することで、高齢者虐待防止策を作成するためのプロジェクト。韓国の中央老人保護専門機関との共同研究(2019)により、どのような虐待がどんな要因で起こり得るかを探り、虐待の防止策の検討に役立てるためのツールとしてPEACE(Preventing Elder Abuse and Continues-care Evaluation tool)を開発。

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●著書

  • 韓昌完・小原愛子. 『インクルーシブとQOLを考える肢体不自由教育』, 111 pp, Asian Society of Human Services 出版部, 2014.8  ISBN: 978-4-908023-00-2
  • 韓昌完. 『その子、発達障害ではありません IN-Childの奇跡』. 255 pp, さくら舎, 2019.2 ISBN: 978-4-86581-185-8
  • 韓昌完. 『誰もが優秀児になれる! CRAYONプロジェクトの実証』. 304 pp, さくら舎, 2023.9 ISBN: 978-4-86581-399-9

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●研究費獲得実績

  • 2004-2009 老人福祉シルバー産業専門人力養成事業(大型プロジェクト ※日本円で3.5億円/年). (代表)韓昌完.
  • 2011-2014 科学研究費助成事業. (代表)北川慶子(分担)新井康平・韓昌完・高山忠雄・永家忠司. 生活を重視した安全な避難方法と避難生活リハビリプログラムによる被災者生活復帰支援(研究課題:23330177):基盤研究(B)
  • 2015-2018 科学研究費助成事業. (代表)韓昌完(分担)上月正博. 特別支援教育成果評価尺度(SNEAT)の開発と授業成果評価モデルの構築(研究課題:15K04567):基盤研究(C) 
  • 2016-2018 科学研究費助成事業. (代表)田中敦士(分担)奥住秀之・韓昌完. 特別支援教育支援員配置によるインクルーシブ教育推進成果評価尺度の標準化(研究課題:16K04838):基盤研究(C)
  • 2017-2020  IN-Childの教育的診断と支援システムの構築. 塩野義製薬株式会社共同研究 (代表)韓昌完.
  • 2019-2021 科学研究費助成事業. (代表)韓昌完. 教育成果評価のための新しいQOL尺度の開発(研究課題19K02400):基盤研究(C)
  • 2022-2024 科学研究費助成事業. (代表)太田麻美子(分担)韓昌完・小原愛子・權偕珍. 乳幼児を対象とした数概念プログラムの開発と統計的効果検証(研究課題22K02442):基盤研究(C)
  • 2023-2027 科学研究費助成事業. (代表)小原愛子(分担)太田麻美子・韓昌完. 縦断データを用いた乳幼児教育の効果検証-子どもの概念形成と自己表現の観点から-(研究課題23K02234):基盤研究(C)

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研究業績

2023年11月時点。

  • 論文数 173本
  • 被引用数 813回(※2018年以来、404回)

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関連項目

QOL、インクルーシブ教育、教育経済学、ヒューマンサービス、特別支援教育、障害者・高齢者福祉、政策科学

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